甘いクスリ


『まあ、あんな奴だけど、
琴子ちゃん、しばらく小芝居に
付き合ってやって。』

千香子さんは、クスクス
笑っていた。

『あのぉ・・・
騙したってお思いになっても
お怒りにならないんですか?』

さっきから
不思議だった事を
尋ねれば、

『別に?先の事なんか
わかんないでしょ。
万が一、琴子ちゃんが、
晴紀を好きになる事も
あるかもしれないし。』


・・・なっても


もし、万が一
なっちゃっても


拒絶されそうだけど。



『まあ、そんな事なくても
本当は、どっちでも
いいんだよ。

琴子ちゃん、一人でも
遊びにおいでよ。

和紀も大好きみたいだし。

さっき、家族もいないって
いってたでしょ。

うちは、こんな感じだから
自分の家みたいに
帰って来たらいいから。』

なっ?て、笑って、
私が、苦手なところを
必死になって
スタイリングした髪を
くちゃくちゃってして
彼女は笑みを見せた。


『はいっ。』

うれしくなって
私も笑った。

あんまり、
笑う事のなかった私が、
今日は、本心から笑ってる。

千香子さんは、本当に、
愛情に溢れた人で
他人なのに、無条件に
包み込んでくれる。


なんだか、

ささくれた自分が
癒された気がした。


 
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