甘いクスリ

うろたえながらも、
私が何とか口を開きかけた時
それは、起こった。


「もしかして、晴紀?」



先生の背中にかけられた
女性の声

先生は、固まって
目を見開く。


思わず、
振り返ってしまった私は、
その方と目があって、
思わず息をのんだ。



なんて
きれいな人・・・


とても優しい瞳を
していた。



何となく、居づらい空気に
会釈をして、先生の隣を
あけてあげようとした。


だけど、できなかった。


「晴紀、この店、よく来るの?
お連れさんは、
カノジョさん、かな?」

先生の手が、私の手首を
ギュッと握っていて。


何も答えない彼の代わりに
女性は、自ら答えを
作りあげた。


「あの・・・」

「そうだよ。アレから
初めてカノジョ
できたから。」


・・・違うといいかけた言葉は
先生の強い言葉が
掻き消した。


「だから、マリ、
邪魔しないで?」

そういって、彼は
笑みを浮かべる。


・・・嘘笑いだ。


この人当たりのよさ気な
上辺だけの笑みは
よく見る作り笑いとも
愛想笑いとも違う。


 


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