蝉の恋

俺はため息混じりに息を吐き出すと携帯をベッド脇のソファーに投げる。

今夜はもう電話がかかってくることはないだろう。

「誰よ？」

ベッドの上、俺のすぐ横に裸で寝転んでいる女がクスクスと笑い声を漏らしている。

「誰よ、アッチャンって～？」

女は二十歳にしては妖艶なイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「誰って、俺以外にいるのか。」

その言葉に女は再びクスクスと笑う。

「偽名なんて使っちゃって～。セフレに嘘はつかないんじゃないの～？

トシアキさん。」

「大丈夫だよ。向こうにも本名じゃないってのは伝えてあるし…。」

セフレをつくるための条件その2 特別ルール。

「お前も知ってるだろうが、俺の本名はトシアキじゃねえの。」

相手に知らせていれば嘘の情報を言ってもいい。

「なぁ、ヨシダ サヤさん。」

勿論これも相手の偽名。
名前なんて本名である必要はない。

この場での名前なんて特に必要な情報じゃない。