約束
 彼は逆に気を使ってその話を振ってくるかもしれない。そう考えると頭がくらくらした。壁に手をつき、目を強くつぶる。


タイミングが悪すぎる。だが、すんだことをあれこれ気にしても、時間を巻き戻すこともできない。とりあえず本の中身を確認する必要がある。

意外とすらすら読めて、そんな心配も不要になるかもしれない。

 視線を感じ、振り返ると見知らぬ生徒に目を思いきり逸らされた。私はもう余計なことを気にせずに、教室に戻ることにした。

 教室に戻った私を待っていたのは晴実の第一声だった。彼女は私の持っている本を見て、苦笑いを浮べる。

「由佳が本をね」


 晴実は当然私が本を苦手なのを知っている。彼女は読書が好きというわけではないが、私に比べると本のことは詳しい。

「おかしいかな?」

「いいと思うよ。でも、最初からそんな本を借りて思い切ったね。もっと短い本か現代文学を選べばよかったのに。そういう本って歴史的な背景もてんこ盛りだからね」
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