君の声が聞こえる(短編)
君の声が聞こえる
ふと、誰かに呼ばれた気がして僕は後ろを振り向いた。


そこにはただ純粋な青だけが広がっていて、小鳥が泳いでいるだけだというのに。






ここへ帰ってきたのは何時以来だろうか。


懐かしい景色。


一時間に一本しか通らない古ぼけた列車を降り、僕は小さな溜め息をつく。


肩を通り抜ける風が運ぶ暖かい春の気配がやたらと心地よく感じた。


空気を大きく、大きく、噛み締めるように吸い込む。


慣れて親しんでいたはずの空気がこんなにも美味しいとは。


人間、不思議なものだ。


誰もいない駅のホーム。未だ停まる列車と同様に古ぼけた場所。


くたびれたロングコートによれよれのスーツを着た僕にはやたらと似合っていて。


それがなんだかおかしくて堪らなかった。





就職の為東京へ旅立ち二年。一度も足を踏み入れることのなかった故郷の地。


帰郷のきっかけとなる手紙が届いたのは一月も前のことだった。


[佐倉秀人様へ]


薄っぺらい封筒に書かれたその文字に、僕の心は高鳴った。


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