後向きの向日葵
穂積雨夜
恋愛に向かって忙しくしていた雨ちゃんからは、それをしたためる手紙が定期的に届いていた。
これに目を通す時というのは、どうも、報告書を開封する気分に近い。
憧れの人物に関するレポートを基盤として、まるでアイドルのブロマイドのような、一般市民男性の写真まで同封されていた。
雨ちゃんの抱く憧れの感情に小休止は無く、ある一人に向けた思いの終わる時が、必ず、別の一人に対する情熱の隆起する時だった。
そして、高校を卒業すると同時に、雨ちゃんは同棲を開始した。

彼女は、程なくして富永雨夜から、穂積雨夜へと姓を変えた。式は挙げなかったが、ある男性と籍を入れたのだ。
手紙の内容は多様な報告書から、“哲也さんに会わせたい!哲也さんに会って!”という、一律の文章に転じていく。
親友の夫・哲也こと穂積さんは、私たちよりも7歳年上だった。
鎌田君や、坂上君たちと会うのとはどこか、訳が違う・・・。
私は、年上の男性に慣れていなかった。
「けれど、けれども、親友の旦那さん。
ここは一つ勇気を振り絞って、会おう!」
私が、腹を括ったためにいよいよ、穂積さんとの、顔合わせは実現したのだった。

実際の穂積さんは、人当たりのいい人だった。
偶然、親しくなってしまった憧れの有名人を紹介するかの如くで、穂積さんを立てる雨ちゃんの態度はどこかかわいらしかった。何にも増して、雨ちゃんが嬉しそうだった。
私も、幸せな気分を拝借した。
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