後向きの向日葵
千賀子さんの恋
雨ちゃんと穂積さんの間に漂う、ただならぬ空気に触れているうちに、私は、千賀子さんのことを思い浮かべていた。
千賀子さんは、穂積さんと同い年の女性だった。
そうは言っても千賀子さんと、穂積さんに接点そのものは無い。
年上だったけれど同性だったので、私は、千賀子さんにはすぐに打ち解けていた。
スポーツジムで知り合ったのが、千賀子さんだ。
彼女は、ジムにご夫婦で通っていた。
度々、コースが一緒になって親しくなったところ、私は、千賀子さんの夫が、有名な小説家であることを知ることとなる。

当時、子供のいなかった千賀子さんは単独で、年下の私の下へ、ちょくちょく遊びに来るようにもなっていった。
暫くしてから千賀子さんは、とんでもない話を打ち明けてくれたのだ。
何と、好きな人が出来たと言うのだ。それは、当該のジムで会う、コーチのことだった。
それと平行して千賀子さんが言うには、しきりに彼女の夫が、
「千賀子は、強くならなくてはいけないよ。」
と言っては自分の趣味において、あちこちに連れ回す人であるとのことだった。
このスポーツジムに通うことも、最初は、そうして始まったものらしいのだ。

つまり、千賀子さんは嫌々ジムに通っていたものの、彼女なりに、ここへ通うための理由を見つけたというわけだ。
そして、私と二人きりになると必ず、待っていましたと言わんばかりにコーチの話を始めるのだ。
そんな時の千賀子さんは、妨害しては申し訳ないくらいに嬉しそうだった。
「や~、ソラさん、ソラさんってば!和田コーチっていいよねぇ。」
「今日ね、ダンスの指導で手が触れた時、何かね、彼も恥ずかしそうな顔をしたのよ!」
「でね、でね・・・!」
千賀子さんの独演会は、このように続いていくのだ。
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