後向きの向日葵
美女の憂鬱
西崎彩子は最近、機嫌が悪かった。
彼女には逆らう者も全くいなければ、彼女の仕事には、新人にありがちな支障の心配も無い。
それでも気が滅入りそうな時は、好みの服を買いに行けばいいのだ。
彼女は業務上、顔が広かった。たいくつな時に遊んでくれそうな、知人、友人のリストには滅多にことを欠くこともない。
学生時代、姫で通って来たこの傾向は、そこで終わりはしなかったのだ。
何一つ、不自由は無いかに思えたが、何だかどうも、この頃の生活は面白くなかった。
そして、おもむろに携帯を手に取る。

その瞬間には舞い散る万札が、どうやら、彼女の目にのみ映っていたらしい。
その光景の想起に苛立った彼女は、とにかく手早く、ボタンを操作するしかないのだった。
急げ、急げ!
何とか動作を続けていないことには、あれが・・・、あれがより鮮明に見えてしまうのだ!

彩子が待ち合わせたのは、2歳程年下の、顔立ちの整った青年だった。
彼女を「彩子さん」と呼ぶこの青年は、彼女の美貌とそれを引き立てる、切れのいい動作に興味津々な様子だった。
そして、食事や買い物の際にはその綺麗な手で、彩子は支払いを済ませてやるのだった。
しかし、最近、あれがどうしようもなく・・・、フラッシュバックするのだ。
何枚も、何枚も天井から降り注ぐ万冊の雨・・・、その部屋で、彩子はタオルだけを纏っていた。
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