危険ナ香リ

隙ヲ見セルな




 ペンを落とした。


 それを拾ってくれたのは、飛鳥くんだった。


 渡してくれた時に、なんだか複雑そうに微笑んだ顔が、忘れられなかった。




 あたしの周りの人達の気持ちなんて、分かんない。




 それはあたしが“欠けている”所為なのか。


 はたまた知るために必要な聞き出す勇気がないからなのか。


 ……どっちにしても、あたしは周りの人達の気持ちが分からない。




「恭子。6時頃いくから」

「うん。わかった。ばいばい」




 教室掃除の祐は、片手にモップを持ちながらあたしに手を振った。


 手を振り返したあと教室をでたあたしは、佐久間先生のところに行こうかなとチラリと考えた。


 だって、お礼したいし。


 ……でも、意地悪されちゃったらどうしよう。


 所詮、あの優しさは風邪ひきに対しての優しさだと理解していたあたしは、保健室にいくのを止めた。


 今日は止めて、また明日にしよう。


 そう思った瞬間に、心のどこかで自分自身に“逃げたな”と呟いた自分がいた。




「清瀬っ」




 1階に降りた時、名前を呼ばれて振り向いた。


 階段を降りる飛鳥くんの姿が見えた。


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