危険ナ香リ

消えた想イ




 祐が家にやってきたのは、ぴったりちょうど、時計の針が6時を示した頃だった。


 すでに家にいてご飯の支度をしてくれていたお母さんが祐に“久しぶり”と声をかけた。


 それに応えて、あたしと一緒に部屋に向かう。


 パタン、とドアが閉まった瞬間に、祐があたしの腕を掴んだ。




「恭子、どうした?」

「……なにが?」

「え。いや、だってお前、泣きそうな顔して……」




 言わないで欲しかった。


 自分が今、泣きたくてたまらないことくらい、分かってたから。


 触れないで欲しかった。


 本当に、泣きいてしまいそうになってしまうから。




「そうだ。あたしイチゴタルト買ったの」

「恭子」

「アップルパイのお礼だよ。家に帰ったらおばさん達にもあげてね」




 そんな話題を口にして、祐の手から逃げるように部屋の真ん中にあるテーブルに向かって歩いた。


 祐の手は簡単に外れた。




「ごめん。今はクッキーでガマンして?」

「……恭子の部屋って、いっつも菓子がおいてある気がする」

「それは小学校の時までだもん。今はあんまりおいてないよ」




 思えば、祐が家にくるのなんて、小学校ぶりだった。


 “懐かしいな”なんて思うと同時に、“どうして今になって家に来たんだろう”と不思議に思った。


 テーブルの上に、持ってきたジュースとクッキーをおいて、目の前に祐が座ったのを確認して、口を開く。




「何か、用があるんだよね?なぁに?」




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