危険ナ香リ


 数学のノートを片手に、何度も“ありがとう”を言い続けた柚乃ちゃんに手を振って、教室から出た。


 出た瞬間に、ため息をはいた。




「あ。恭子ちゃんっ」




 ドキッとして振り向くと、そこには予想した通り、美波先輩がいた。


 にっこり笑いながら、駆け足であたしに近づく美波先輩。


 一度力が抜けたあたしだったけど、抜けた力が戻ってきた。




「な、なんですか?」

「……うーんとね」




 にこにこと笑い続ける美波先輩。


 あたしは、なんだかちょっとドキドキしていた。




「顔見にきただけ」




 ……え……。




「せ、せんぱい。そんな理由で、」

「あはは。ごめんごめん。……って、ちょっと涙目になってるけど、どしたの?」




 あたしは思ったよりも顔に出やすいタイプだったらしい。


 美波先輩がここまできた理由に、期待して、裏切られて……ショックを受けた。


 さっきの柚乃ちゃんの時は我慢できたけど、二度目になると、なんだか、我慢できない。


 泣きたくなる。


 だけど、下校していく人達や部活にいく人達で賑わうこの廊下で、泣くなんてできない。




「……なんでも、ないです」




 小さな声でそう呟いて、うつむいた。


 それから、美波先輩にさよならの挨拶もせずに、回れ右をして歩き出す。




 向かう先は、保健室だった。




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