【完】冷徹仮面王子と姫。
 そこで一つ、どうしようもなく楽しみなものがある。


 もちろん、氷室君の家。


 部屋はすっきり規定に片付いていそうだとか、本棚は難しい本で一杯になっていそうだとか。


 こんな妄想をしている辺り、あたしは本当に気持ち悪い。


 考えているだけだと言い訳をして見ても、むしろそのほうが、で。


 万が一自分の思考が流出してしまえば、とうに友達をなくしている気がする。


 とはいえ、いつも一緒にいるのはあーちゃんくらいだから、彼女がいてくれれば大丈夫なのだけど。



「一香、そろそろ帰ってきなさい」


「……ぬ」


「帰ってきなさいって」



 生返事だけして、まだ妄想の渦に呑まれていたあたしの頭を、小突いて連れ戻す。


 合わせて、大きな溜息。



「い、痛い」



 あたしってば、またよその世界に行っていたようで。


 時々、考え事のし過ぎで外界が殆どシャットアウトされることがある。


 以前は電柱にぶつかったり自転車から落ちたり…ということがあった。ここまでくると、あの時代は黒歴史。


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