ずっと大好き…この恋は秘密 …


「そういえばあのタバコ沙紀が持って行ったみたいなんだ」


大きな水槽を眺めながら突然浅井が言った。


水族館の中は海とは違って
人手溢れていて…

その中で手を繋いでいると自分達が普通の恋人同士に思えてくる。



中の魚は寒さも知らずに悠々と泳ぎ回っていた。


「あ、そうなんだ…」


みのりが返事をする。


なんだかわざとらしくなってしまう気がして

短い言葉を選んだ。


「ごめんな…」


「全然っ!」


浅井が何に謝ったのかも分からずにみのりが大きく首を振った。





…だめだ。


あたし嘘とか絶対つけない。


絶対不自然だよ…


隣で勢いよく首を振って…

かと思えばため息をついているみのりを見て
浅井が少し心配そうに声をかける。


「…どうかした?」


みのりが顔をあげると
浅井の優しい瞳が見つめていた。





どこまでも優しくて…

包み込むように見つめてくれる瞳…




「…浅井さん、

あたし沙紀さんに…」



後ろを団体が通り過ぎ
急に騒がしくなる。


賑やかな声に
みのりが口を閉じた。


思わず出てしまいそうになった言葉にびっくりした。





…あたし何言おうとしてた…?




体から血が引いていくのがわかった。




「…なに?」


「え…あ、沙紀さんて…
どんな人?」


咄嗟にごまかした。



浅井がみのりの言葉に目の前の水槽を見つめながら口を開く。


ちょうど小さな魚の魚群がキラキラ光りながら通るところだった。



「…わがままで自分勝手で…

気の多いやつかな…。


いつも誰かしら男連れてたし」


通り過ぎた魚を目で追いながら…

浅井がゆっくり言った。


「へぇ…」





みのりの大好きなはずの浅井の声が耳を抜けていく。






みのりの心が…


揺れていた。







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