365回の軌跡
一度家に戻り、喪服に着替えた私は黒沢さんと待ち合わせ、倉持さんのお宅へ向かった。私はまだ信じられずにいた。
倉持さんのお宅へ着き、呼び鈴を押す。
中から息子さんのお嫁さんが出てきた。涙の後が目を腫らしていた。
「この度はご愁傷様です。私達、倉持様に大変お世話になりましたヘルパーの宮川と管理者の黒沢と申します。お線香を上げさせて頂きたく…」
「ああ、そうですか!義父が生前お世話になりまして。わざわざすいません、どうぞお入りください」
私達は居間に通された。倉持さんの遺体は仏壇の前に寝かされていた。数人の年配の方達が泣きながら倉持さんの顔を覗き込んでいる。
私達は息子様に挨拶した。
「ヘルパーの宮川と管理者の黒沢と申します。この度はご愁傷様です。」
黒沢さんは頭を下げる。私も後に続く。
「わざわざすいません」
息子様も頭を下げる。
「父は頑固だから介護も大変でしたよね?ホント、お世話になりました」
息子様はふと顔を上げ、私を見る。
「ヘルパーの宮川さん…といいましたよね?」
「はい」
私は答える。
「渡す物があるんですよ!ちょっと待っててください!」
息子様は倉持さんの部屋へ消えた。
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