逢瀬を重ね、君を愛す


「彩音、君の人生はここじゃない。彩音には彩音の生きる場所がある。」

「っ…薫…薫…」


もっと近寄りたいと額を薫に押し付ける。
そして足に感じる感覚が変わっていく。徐々に体がその穴に埋まっていく。


「っ…やだっ…薫…薫っ…」


すがりつくように薫を抱きしめる。
薫の手がなだめるように頭に触れる。
それでももう、腰のあたりまで穴が迫っている。時間がない。


「彩音、俺は彩音に出会えてよかった。こんなにも別れがつらくても」

「嘘っ…嘘…やめてよ…!!本当は私の事好きじゃないんでしょ!辛くなんてないくせ…」


もう、それ以上言葉は紡げなかった。
触れ合う唇が震える。清雅の時とは違う感触。直に唇と唇が触れ合う感触だった。

茫然と薫を見つめると、薫の目が潤んでいた。


「薫…」

「…彩音。」


もう一度、近づく薫の体を抱きしめる。
徐々に迫ってくる穴の気配を感じながら体中に刻み込むように、薫にすがる。


「彩音…絶対に忘れない。彩音、好きだ。」

「うん…」


そして、穴がついに顔にかかる。
薫の姿を刻むように見つめる。そして、伸ばした手を掴み、指を絡める。最後の最後まで離さないように。

「薫…大好き…薫…」

穴に飲み込まれ、声が紡げなくなっても、ずっと心でつぶやく。
最後の言葉に答えるように、残った手に薫は唇を寄せる。


「…覚えていてくれ、俺はずっと…ここに居る。この美しい都で、時代を超えても彩音を待ってる―――」



約束の印として、絡めた指に小さなぬくもりを感じて、彩音の意識は途切れた。



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