逢瀬を重ね、君を愛す


「さー、朝ご飯でも食べるかー」

「そうだな。」


その場を払拭するように、薫が立ち上がる。
先ほどの空気とは空回りする声音を聞きながら、部屋を出ていく薫に続く。


部屋を一歩出て、振り返る。


短い間だったけども。
何度となく通った部屋。
入るたびに、飛び交う喧嘩口調な会話がとても胸に響いている。

彩音との会話を楽しんでいた。
会うたびに、この時代に染まっていく姿が嬉しかった。

幸せそうな彩音の姿が、いとおしかった。
今もなお、この部屋の主がすぐにでも戻ってきそうな雰囲気を漂わせている。

でも、前に進むと決めた。
薫を支えていくと。


全ての気持ちを封印するように。


トン。っとふすまを閉め、踵を返す。


---もう、この部屋に来ることはないだろう。


「じゃあな。バカ女」


小さくつぶやいた言葉は、誰に聞かれることもなく消え、迷いない足取りで先を進む薫の後に並んだ。
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