逢瀬を重ね、君を愛す


初めはよそよそしかった桜乃も、今では呼び捨てで呼び合う仲になった。


「あ、彩音。そこ…更に解れてる」

「え゛…。」


一生懸命縫ってる筈なのに、彩音が縫うと更にひどくなる。

渡された着物は薫の物だ。
もう着ることもない服は彩音の練習の布に変わっていた。


「……いくら練習だからって………」


薫の服に針を刺すのは躊躇われる。
だって、薫の来ていたものだ。

高価に決まってる。


「この辺の刺繍とか凄いもんなぁ…」


端にある見事な刺繍を憧れながら撫でていたら、なぜか解れた。


「やっ………ばっ!!」


慌てて出た糸を無理矢理中に押し込める。
いくらいらないと分かっていても、高価な物を傷つけられるほどの度胸はない。
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