逢瀬を重ね、君を愛す
執務室に籠った薫は何回目か分からないため息を着いた。

それで手が止まるなら蛍も口出しするだろうが、ちゃんと仕事をしているので特に何も言わなかった。


「…………はぁ」


本日52回目のため息を聞いた蛍はさすがに口を開いた。


「気になるならあの時彩音さんたちと一緒にいらっしゃればよかったのに。」


その後は激務ですけど。

という言葉は胸の中で呟くところは蛍の性格をよく表している。

その事に気づいているのか筆を止めてピッと筆先を蛍へ向ける。


「軽く言うな、軽く。どうせその後死にそうなほど仕事持ってくるんだろ」


「筆先で人を指さないで下さい。墨が飛ぶでしょう」


たしなめる蛍に薫は舌打ちすると、再び筆を動かし始めた。

その様子に息を吐き出すと、蛍は真剣な顔で薫を見つめた。


「そんなに好きなら側に置いておけばいいじゃないですか。」

「……置いてる。」


主語は無いが、伝わっている事が薫の口調から読み取れる。
視線は紙を見てこちらをみないが、構わず蛍は続ける。


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