逢瀬を重ね、君を愛す


「あら、桜が。」


満開の桜を風が散らす。
枚散る桜の中にいる彼女はとても綺麗だった。



「さ、東宮。戻りましょう。」


崩れも直し、移動しようとした彼女の手を掴み立ち上がるのを阻む。


「なにか?」


不思議な表情を見せるので、下から覗き込みながら言った。


「昔みたいに薫って呼んでよ、遠花」


そう言うと彼女は決まって困った顔をし、


「東宮、お戯れが過ぎますよ」


といいながら掴んだ腕をそっと外される。


気高く、艶っぽく、薫の心を射止めていた至高の女―――遠花


薫や清雅の幼なじみであり、薫のお世話係であり、薫の初恋の人。


「遠花」


誰より桜が似合う女だった。
< 89 / 159 >

この作品をシェア

pagetop