逢瀬を重ね、君を愛す


すっと心が冷えていくのを感じた。


―――更衣


正妻じゃなかったとしても。


「…薫には、奥さんいたんだね。」


うつむいた顔があげられないし、清雅も何も言ってこない。
この時代の人が気にしなくても、私は現代人だ。
だから


―――一夫多妻制なんて吐き気がする。



あっけなく終わってしまう、私の恋。
不意に目頭が熱くなっていくのが分かる。

目に溜まる水分がこぼれそうなとき、清雅の静かな声が部屋に響いた。


「…遠花はもういない」


「え・・・?」


あまりの突拍子もない言葉に思わず顔を上げると、清雅は静かな表情で彩音を見ていた。


「遠花は、俺たちの前から消えた。右大臣の息子と一緒に」

「消えた…一緒に…?…それって!!」


清雅の意図するところに気づいて彩音は息をのむ。
帝の更衣と右大臣の息子が一緒に消えた。
それはつまり。


「遠花は右大臣の息子と心中した。」


今度は違う意味で心がざわめく。


―――そうか、だから。


耳に残る、この時代に来たときに聞いた。
あの切ない笛の音。


「…あれは…遠花さんのための音色…」


聞いていて胸が押しつぶされそうになる音色。
悲恋だと、気づいてしまうくらい、切ない雅曲。
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