ビターチョコレート


「お見合い?」


俺はこれまでの経緯を話した。


親父がお見合いをするように言ったこと。
俺はは親父の顔をたてる為に行って、相手はあのS女だった事。
お見合いを断る為に、彼女を紹介して諦めさせたいという事。


「悪いな。黙ってて。」


そう言うと、千代子は手を前に出し、首を横に振った。


「いいえっ!そんな、私だって……」


その言葉の後に続く言葉を、俺は知っていた。


「してたんやろ?見合い。」


「へっ?」


鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、こちらを見る。
おおかた、『何で分かったんですか?』と言いたいのだろう。


「俺とお前のお見合いの場所、一緒やってんで。俺、お前見たもん」


少し笑って言った。


「え―――!!声かけてくださいよ!」


「いや、なんかボケーっと突っ立ってたから、起こすのも悪いと思ってな?」


「立ったまま寝ませんー!」


千代子は頬に空気を入れて膨らませる。
それを突いて空気を逃がした。


二人して笑っていると、千代子が両手をパン!と叩き、俺の顔を見た。


「そうだ!慎一さん!私の両親にも会ってくれませんか!?」


ああ、そっか。
それが当たり前やんな。


俺はそう思ったが、そこはちょっと嫌な顔をしてみせた。



「…なんでですか」


再びむくれる千代子。


「うそうそ、ええよ。千代子の両親もしつこいんか?」


そう言って俺は千代子の髪の毛をワシャワシャとかいた。
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