スイッチを壊す。

グッチー

吉岡の声を聞いたのは、その日の夕方だった。
その時ゴミ捨ての当番だった僕は、校舎の端にあるゴミ捨て場へ行かなければならなかった。僕はあそこが嫌いだ。ゴミ捨て場は、昼間でさえ薄暗い。夕方となると当然暗さは増すわけで、不気味な雰囲気が漂う。それにあのゴミ独特の異臭とくれば、あそこを好む奴なんかそうそう居ないだろう。
ため息をこぼし、紙屑でいっぱいになったゴミ箱抱えて校舎の端まで歩く。動くたびにザクザクとリズムよく砂利が音を出した。

「宮野くーん」

「坂口先生」

名前を呼ばれ振り返ると坂口が立っていた。
坂口とはこの学校の教師である。まだ若く、あまり厳しくないせいか生徒からの人気が高い。「グッチー」なんていうあだ名までついている。名字の「坂口」からとったものらしい。「グッチー、」と生徒から呼ばれれば、お得意の笑顔で答えるのだった。

「ちょっといいかい、ついでにこれも」

僕の腕の中に無くなったタバコを捨てた。こいつ、喫煙者か。一見真面目な外見と、タバコのゴミを照らし合わせる。なんだか少し裏切られた気分だ。

「タバコ吸うんですね」
「あー、うん、なかなかやめられなくて困るよ」

困ると言っていながらも、本当に困っている様子は全くなかった。きっと禁煙が出来ないんじゃなく、する気がないんだと思った。

「そんなに美味しいですか」
「知ってるくせに。あの時、見つけたのが僕でよかったよ、ほんとに」

前に僕は一度タバコを吸ったことがあった。学校の屋上で、クラスメイトと。ちょっと不良くさいことをするのが格好いいと思った訳ではなく、単純に誘われたのと、かなりの好奇心からだった。
うめえ、うめえとタバコを吸ってみせるクラスメイトの真似をして吸う。勢いよく吸い込んでしまい、死にそうなほど咳がでた。それをみて周りの奴らが笑う。
「宮野、だっせー」「うるせー」
そんなやりとりを交わし、わいわい騒いでいるところに坂口がきた。
皆の表情が固まる。いくらあの坂口でも、タバコはやばいんじゃないか。皆がそう思ったであろう。
そのとき、坂口はこう言った。
「僕も内緒で一本、もーらい」
やはりあの時も、へらっと笑っていた。



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