流せない涙
きえる
私はペットショップで働いている。それも全国展開するチェーン店だ。街にある小さなペットショップで本当は働きたかった。でも、それは親が許してくれなかった。
「なんで、高い学費を払って・・・。」
実家に帰る度に、こう言われては逆らう事も出来ない。そんな理由からだった。

「いらっしゃいませ。」
いつものようにお客様に挨拶をする。
「ありがとうございました。」
これも同じだ。いつもと同じ挨拶だ。
これだけが私の仕事と言ってもいい。新人の私には、特に仕事が割り当てられているでもなく、毎日繰り返しの日々を送っていた。

そんな私に転機が訪れた。主任がこう言ってくれたのだ。
「君は今日から倉庫の管理をしてもらうよ。」
主任の後ろにつき、倉庫に向かう。はじめて見るものばかりだ。気分が高まった。
「この倉庫の在庫を管理するんだ。」
倉庫の扉を開けると、たくさんの段ボールが積み上がっていた。これを一人で管理するのは大変だ。それの気持ちは表情に表れていた。
「あ、あの・・・。」
「ん?」
「これ、一人で管理するんですか?」
「まさか、彼らも一緒だ。」
先に倉庫で働いている社員が何人かいた。主任は彼らを呼び止め、私に紹介してくれた。彼らの名前は右から吉原、中島、岩屋と言った。
「よろしくお願いします。」
私が挨拶をすると、三人とも軽く会釈をした。ただ、その中の吉原と言う男だけは、私の所にやって来て耳打ちをした。
「よろしくね、かわいこちゃん!」
私が何とも言えない気持ちになったのは言うまでもない。
(なんなの・・・あれ・・・。)

四人での作業は数ヶ月続いた。
それがいつしか三人、二人、そして私だけになってしまった。
(みんなどうしたんだろ?)
それほど親しくはしていない事もあり、それ以上は何も思わなかった。
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