ハツコイ☆血肉色
☆1 ユリカ
目的の場所に到着したのは、山道を小一時間ほど走ったあとだった。


丸と四角と三角のつみ木で組み立てたものを、そのまま大きくして豪華にしたようなヘンテコリンな家だ。

夜の闇のなか、大げさなくらいにライトアップされている。


「夏はここに来ることが多いかな。海も近いからね」


円城寺くんはそう言うと、BMWのエンジンを止めてそそくさと車を降りた。


彼につづいて助手席から降りると、外は相変わらずのむし暑さだった。

ジジジ、という虫の声を聞きながら、円城寺くんとふたりで玄関のほうに向かう。


近ごろの医大生は、別荘くらい持っていて当たり前なのだろうか。

それとも、泣く子もだまる円城寺財閥の御曹司なればこそか。

とにもかくにも、わたしなんかとは住む世界がまったく違う。


円城寺くんが玄関のぶあついドアを開けると、ひんやりとした空気がわたしの頬をなでた。


「あれ? 冷房きいてる。誰かいるのかな?」

「いや、空調は年中動いてるんだよ。デリケートな観葉植物なんかもあるからね」


彼は長い前髪を首の動きだけでかき上げた。


吹き抜けになった玄関の広間は、ちょっとしたホテルのロビーみたいだった。

天井に燦然と輝くゴージャスなシャンデリアが、大理石の床をまぶしいくらいに照らしている。

黒いえんび服を着こんだ執事が突然あらわれて、「お帰りなさいませお坊ちゃま」と言いだしてもまったく違和感なし。


すると、奥につづくうす暗い廊下の先に黒い影があらわれた。


執事さん……?


黒い影が、ものすごいスピードで近づいてくる。
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