ポケットの恋
「ごめんなさい!待ちましたよね!?」
花時計公園に1時。
幸日は約束の時間より5分弱遅れてきた。
「全然」
その幸日を直視できずに、南部はベンチから立ち上がった。
幸日はふわっとしたワンピースに春らしいカーディガンを羽織っている。
普段と違わない筈なのに学校の外で会うせいか、妙に気恥ずかしかった。
「そう…ですか?」
そう言って上目遣いで窺ってくる。
それ、反則だろ。
無自覚か、確信犯か。
幸日が確信犯であるとは思えなかった。
「それで、どこから行く?」
拡散する思考を振り払い、無理矢理話題を変えた。
幸日は一瞬驚いたように目を丸くして、すぐに可笑しそうに笑った。
「どこ行くって…それは南部さんが決めてくれないと」
「あぁ…そうか」
姉へのプレゼントなどは単なる口実のつもりだったので、何にも考えていなかった。
南部が言葉に詰まっていると、幸日が控えめに助け船を出してくれた。
「お姉さんへのプレゼントでしたよね。どんなものがいいんですか?」
「あぁっと…センスの悪いもん渡したら多分キレるからなぁ。どういうのが良いと思う?ごめん、そういうの全然わかんなくて」
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