あたしの風
あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
あのひとは、あの丘の上に立っていました。 そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。
やっと、あのひとのそばにたどり着きました。 あのひとは、あたしに向かって言いました。
でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。

「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」

 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
こう言って、目を閉じました。
すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。

 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。

風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。
目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。

それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。

その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。
あのひとは、それを許してくれるはずです。

優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 
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