シルバーブラッド 眠らぬ夜に
 たっぷりと間を置いて、まだ、彼女が喋ろうとしないので、浩之の方が口を開いた。

「オレにとってはね、とても魅力的な兄ではなかったんだ。

はっきり言って、いなくなってくれてありがたかった。

だから、あいつの行き先を知りたがっても、オレから何か聞きだせると思わないほうがいいよ。」

「どうしてそんなこと言うの。

兄弟なのに。」

胸の中に、どす黒いものが降りてくる。

彼女のせいだ。

思い出したくなんかないのに。

「やめてくれ。」

 静かに、言った。

それから、何も感じないモードの自分に意識的に切り替えた。

どろどろとしたものに侵されてくる自分の胸の中を、誰か他の人の中で起こっていることのように傍観するのだ。

頭を心から切り離してしまえばいいのだ。

 そうすれば、過去の傷に縛られている、カワイソウな人間が見えてくる。

 
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