いくつかの夜

「すみませ〜ん!」


「はぁい。」


深夜のお客様はテンションが高い。

合わせるように返事をしながら店先へ。


「とびきりの花束を。ね、哲也さん。」


「え?あぁ、彼女に似合いそうな花束を。」


明らかに酔っ払いの集団。

お酒臭い注文に笑顔で答える。


『はい。とびきりの花束ですね。』


手際良く花を選ぶ。


「私達、似合ってます?」


聞かれて手が止まる。


『はい。とってもお似合いですよ。』


微笑みがひきつらないようにすぐに手を動かし始めた。


『彼氏さんからのプレゼントならとびきりにしなくちゃですねぇ。』


サービス業です。

出来上がった花束は、本当にとびきりの花束で……


彼女の笑顔もとびきりで、彼氏の笑顔は……


きっと私の心臓の音が一番とびきりで、彼氏に聞こえてしまわないようにとびきりの笑顔で見送ることに集中した。




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