ブラッティ・エンジェル
「あいつと、知り合いだったのね」
「それはこっちのセリフだよ。いったいなにが起こっているの?」
サヨはうつむいている星司を見つめた。何でも受け入れると言うように、真っ直ぐ。
「つーことは、サヨは天使ってわけなのね。いろいろと納得いくわ~」
目を細め、いつものような口調で明るく振る舞う星司は、痛々しくて見ていられなかった。空元気なのは、どう見てもわかる。
「マスターは天使を知っているの?もしかして…」
「いや、俺はいたって普通の人間よ。ただ…」
星司の言葉が詰まった。
 言葉を選んでいるよう。決意を固めているようで。
 口を開けては閉める。幾度もそれを繰り返す。
 サヨは、その口から言葉が発せられるのを待った。
「サヨは、ヒナガを知ってるか?」
心臓が鷲掴みにされたように、胸が一気に苦しくなった。
 ヒナガ。
 その名はもちろん知っている。
「うん。知ってる。ヒナガは、私の…」
その後がうまく出てこないのはどうしてだろう?
 しかし、なんて言っていいのかわからないのは確かだった。
「俺は…ヒナガを待ってるんだ」
「え?」
もう、何が何だかわからなかった。
 どうして、ヒナガが出てくるのか。どうして、今になって星司の口からヒナガの名前が出てくるのか。
 サヨの頭には疑問しか存在しなかった。
 次に何が口から出てくるのか気になって、それを凝視した。
「俺はもう、十何年もあいつを待ってるんだ」
星司は、全てを静かに話し始めた。
 それがどんなものなのか。今後のサヨの運命にどう影響するのかわからない。
 でも、サヨは静かに耳を傾けたのだった。
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