ブラッティ・エンジェル
「どうした、望?今日はバイトじゃないだろう」
「今日は客なんで」
マスターに少し微笑みかけた望の顔は、少し疲れているようだった。
 そして、望はサヨをジッと見据える。
「マスター、奥の席空きはある?」
「あぁ、そりゃあもうたくさんと。今日は客がはいんなくてねぇ」
笑いながらマスターは新聞を広げた。
「全く、この不況をどう乗り越えようかねぇ」
アハハとから笑いをたてるマスターをよそに、二人は店の奥へと歩き出した。
 店の奥は、本当にがらんっとしていた。
 埋まってる席って、あるのだろうか。
 二人は、端の席に座る。
「それで、俺に話さなきゃいけない事って?」
「うん。話せば長くなるけど…」
サヨは喉がいかれるぐらい話した。
 望は口をはさまずただ頷きながら、聞いていた。
「これが、私ともう一人のノゾムの話」
言い終わった頃には、サヨの喉はカラカラに渇ききっていた。
「そんなことが…」
「うん」
「それが、俺に会わなかった理由」
「うん」
しばらくの沈黙。
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