60年後のラブレター
第5章 言葉
拝啓、佐藤 勇次様へ

 今、この手紙を読まれているということは、私はこの世にいないかもしれません。たぶん、あなたはこんな手紙を書いている事を知ったら、さぞかし、怒ることでしょうね。
それも承知で私は書きます。まずこれだけは、言いたいので、先に書きます。幸せでした。あなたと一緒に人生を歩めて、私は幸せでした。あなたと、初めて会った時、覚えていますか?あなたが、声を掛けてくれた時と違いますよ。私が、あの店でバイトを始めたときですね。私が、商品を陳列している時、誤ってお弁当を落としてしまったんです。その時、私は店長に怒られると思ったとき、あなたが何も言わず落ちた弁当を拾って、すぐさま、弁当をレジに持っていって、落ちた弁当を買ってくれましたね。 私は、あの瞬間心が温まりました。世の中にはこんな人もいるんだと。人にとってはどうでもいいことかもしれませんが、私にとっては、忘れられない思い出です。あの出来事があったからこそ、私も人と人との関係を大切にしようと思いました。ありがとうございます。そして、本当に残念なことが2つあります。一つは、私と貴方の愛の結晶の愛子の事です。愛子が生まれもうじき三歳になりますね。あなたと私と愛子で手をつないで、七五三に行きたかったね。幼稚園の卒業式も一緒に写真なんか撮りたかったね。小学校も中学校も高校も出きれば大学もいって欲しかったな。そして、なんといっても結婚式の花嫁姿を見たかったね。あなたは最初旦那さんに対して必ず、だめだ、娘は渡せないと反対するんでしょうね。結婚式で泣いてみたかったなぁ。そして、初孫ができて、おばあちゃんになりたかったなぁ。年をとったら、あなたと二人で、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと川の土手を手を繋いで歩くのが楽しみだったのになぁ。
佐藤 勇次様、改めて言わせてもらいます。
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