LLE <短>
chance to




「せんぱ〜い!先輩先輩ー!!」

「うっわ!?またお前かよ」

「またって言い方はないじゃないですかぁ。愛しい愛しい先輩に会いにきたんですよー」



――春爛漫。

ぷかぷかと軽そうな雲が浮かぶ空の下。



真っ黒な学ランで隠された、先輩の日焼けした、筋肉質の逞しい腕に絡み付いて、

あたしは今日も、斜め上にある先輩の顔を見上げる。


何度見つめたって、飽きることのない、愛しい顔。



「お前なぁ……ま、いいや」



そんなあたしに、先輩はひとつだけ、大きなため息をあたしの頭上にポトリと落とすと、

強張っていた肩の力を抜いて、抵抗するのを止めた。



別に受け入れてくれてるわけじゃなくて、どんなに文句を言っても、止めないあたしに、

ただ、呆れてるだけだってことは、ちゃんとわかってるんだけど。


でも、いいんだ。

それでもあたしは、十分すぎるくらい、嬉しいんだから。



“簡単にスキとか言うな”

“イチイチひっつくな”


最初は、幾度となく眉間にシワを寄せて、お父さんみたいな口調であたしを叱っていた先輩だけど、

全然懲りないあたしに諦めたのか、最近はそれすら言わなくなった。



ほんの些細なやり取りがシアワセで、自分勝手だって承知しながら

あたしは今日も、迷惑そうに形のいい眉を寄せて困る先輩を見て、笑うんだ。


< 2 / 51 >

この作品をシェア

pagetop