カミサン伝説山手線編フランスバージョン(ショート)
フランス?
 そういうことだから、

私は臭いのを我慢してずっと座っていた。

 すると、その男が座ってから1周近くなる頃に、

男は私に

 「その時計はフランスだすか」

と訊いてきた。

 私は最初何が何だかわからなかったが、

 私の隣の男が

「フランクとフランスを間違えているんですよ」

と小声でアドバイスしてくれた。

「はあ?」

「フランス・ミュラーだと思ってるですよ」

「まさかあ」

「いいですから、笑って、合わせて」

 そこで、

 私はにっこりと笑って

「ええ、わかります」

と答えた。

 すると男は

「すんばらしいだすなあ。僕にも見せてくれだす」

とずうずうしいことを言ってきた。

本当なら触らせるだけでもイヤだったけれど、

カミサンだと思うとむげに断れず、

「ええ、少しだけなら」と言って、

時計をはずしてその男に渡した。

 男は

「高いんだすよなあ。僕も欲しいだすなあ」

とぶつぶつ呟きながら、

私の時計を触りまくった。


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