空色幻想曲
「あなたの子どものときって……」
「もう始めるぞ。今の季節は日が短い」

 話が別の方向に行きかけたのを、空をあおぎながら止めた。

 つられて見あげると、まだ赤い。でも太陽から一番遠くのほうは群青(ぐんじょう)色がのんびりと(あかね)色にもたれかかっている。

 そうなると、こっちはのんびりしていられない……けど。

「あの……ホントに真剣でやるの?」

 彼におずおずと尋ねた。

「不満か?」

「そういうわけじゃないけど……」

 この森に来る前「愛用の剣を持ってこい」と言われたときは正直驚いた。一人で稽古するときは真剣を使ったりもするけれど、手合わせは木剣か刃をつぶした模造剣を使うのがふつうだ。

 真剣は命の危険がある。

 ……そういうことを怖がっていたら実戦では通用しない、と言われるかもしれないけれど。

「斬れない剣でも殺傷力はあるんだぞ」

「そ、そうなの?」

「それくらい理解していると思ったんだがな」

 ガッカリしたように言われて、ちょっとしょげてしまう。そんな私にあきれながらもていねいに説明してくれた。

 今でこそ製造技術の発達で斬れ味の鋭い剣が作られるようになったけれど、昔は、敵の鎧ごと『叩きつぶす』ために作られていた。だから斬れ味より、重さや強度のほうが重要だったのだ。

 それが示すことは、つまり……

「重さだけでも人は殺せる」

「……じゃあ、木剣は?」

 生身で受けたら痛いだろうけど鎧をつぶせるほどの重さはない。
 でも彼は「殺せる」と断言した。鎧のすき間から急所を突けばいいのだ、と。

 それは達人レベルじゃないと難しいんじゃ?
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