空色幻想曲
「……フェンネルには礼を言わねばならんな」

 推薦のことだろうか。きっとフェンネルなら「礼なんかいらねぇ」って言うと思うけれど。
 やっぱり不良騎士のくせに律儀だ。

「しばらく帰ってこないよ」

「どれくらいだ?」

「私の即位式くらい」

「長いな」

「今回は特別。国外の任務みたいで、国内も少しは行き来するみたいだから『近くまで来たらよっていく』って」

「そうか」

「おしゃべりはここまで! さあ、修行の続きよ!!」

 剣に空を斬らせて戦闘態勢になる。

「まだやる気なのか?」

「あたりまえでしょ! まだ始めたばっかりじゃない!!」

「俺は甘くないぞ」

 また試すように鋭い眼光ですごんできた。

 彼が容赦のないことはさっきの手合わせでじゅうぶんわかっている。真剣にも最初はひるんだけど、実戦で使える技術こそが私のほしかったものだ。

『もっと強くなりたい』

──彼との稽古ならば、それが叶う。
 もうとまどう必要などどこにもなかった。

「望むところよ!」

 不敵な笑みでウインクしてみせたら

「本当に、大した王女だ……」

 あきれとも感心とも取れる微妙な表情でつぶやいた。

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