空色幻想曲
「よぉ、新入り! 宿舎の居心地はどうだ?」

 乱暴に開け放たれた扉から底抜けに陽気な声。
 緊張から反転した空気に、数秒ほど固まってしまった。

「悪くない……。あんたは?」

 反射的に握った剣の(つか)をそっと放して、侵入者……もとい、来訪者に尋ねた。

 黒の短髪に、藍の瞳。
 真っ青な服に、派手な緋色のマント。
 腰には二本の剣。

 騎士らしき風貌(ふうぼう)の男だ。
 どこかで見た顔だが、思い出せない。

 男は頬をピクピクと引きつらせながら大げさに肩を落とした。

「オマエ……オレのこと覚えてねぇのかよ」

「すまん」

「入団試験で会っただろ!」

 苛々(いらいら)と投げかけられた言葉にしばらく目を伏せ──ああ、そうだ。と、思い出す。
 たしか騎士入団試験で手合わせした試験官だ。ならば、ある程度地位の高い騎士なのだろう。

 ──正直、そうは見えないが。

「ま、いっか。あんときゃ名乗らなかったしな」

 あっけらかんと言い放って爽やかに白い歯を見せた。なんとも切り替えの早い男だ。
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