空色幻想曲

「だからこそ、必要なのさ」


 急に鋭くなる眼差(まなざ)し。
──と思った次の瞬間には、元の楽しげな目をして笑っていた。

 見間違い……だろうか。

「期待してるぜ、新しい親衛隊長さんよ!」

「リュート=グレイだ」

「はいはい、リュートね! じゃ、ティアのことよろしく頼むわ」

 肩をバシバシ叩かれた。その豪快さに、最初の扉を突き破るような音はノックだったのか、と今さら気づく。

 彼は何がそんなに愉快なのか、陽気な笑い声を反響させて部屋を出ていった。

 真昼の太陽。
 それでいて、嵐のような男だった。

 疲れた……。
 何もしてないのにドッと疲れた。
 台風が部屋中を引っかき回していった後のような虚脱(きょだつ)感が漂う。
 そして胸の奥に残るわずかな、吹き()まり。

 俺は嵐のような男の言葉を思い返した。
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