空色幻想曲
「ロキ、あなたは黙ってなさい。
──《癒しの大気(ヒーリア)》」

 慣れた様子で緑髪をあしらい、俺の左肩にそっと手をかざして短く唱えた。
『神聖語』というやつか。
 神官たちはもっと長く唱えていたと思うが、神官長ともなれば一言で済むらしい。

 ぼうっと青白い光が傷口を包み込み見る間にふさいでいく。自然光とも灯火とも異なる少しひんやりとした明かりが、熱を持った肌には心地よかった。綺麗に縫い合わせたような斬り傷の痕だけを残して光は消えた。

 ここまでものの数秒。

 治癒にかかる時間は、傷の深さと術者の力量に左右される。普通の神官が詠唱している間に重傷治癒を終わらせてしまうのだから、天才と呼ばれるだけのことはあるな。

「すまなかった」

 すぐさま出口へ歩き出すと、鋭い口調で引き止められた。

「待ちなさい。訓練に戻るつもりですか」

「あたりまえだ」

「よしなさい。治癒直後は痛みが多少残っているはずです」

 神官長が魔法をかけた部分を指し示した。
 が、俺はまだ違和感が残る左肩から目を逸らして吐き捨てる。

「痛みには慣れている」
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