空色幻想曲
     ◇ ◇ ◇

 騎士宿舎の前庭に降り立つ、(あか)い影。

 まるで実体のない幽霊(ゴースト)のように、その身を植えこみの陰にすばやく溶けこませる。

 宿舎の窓に目を留めた。遠いガラス越しには、何も知らない若き騎士がやすらかなまどろみの中にいるのだろう。

 ふっ、と(あざけ)りにも聞こえるため息をこぼす。

「『目を掛けてる』……か。そんなんじゃねぇ。『利用してる』だけさ」

 ──アイツの力も。アイツの“想い”もな……

 (うつ)ろに開いた藍の眼に黒い炎を揺らめかせながら。

「アーウィング……」

 天上のひときわ輝く一点に向かって呼んだ、亡き親友の名。
 せつなる声にこめられていたのは嘆きなどではなく、心静かな決意だった。

 そして、彼もまた、孤独な闘いにおもむくため、


 再び“闇”の中へ──……


********************
< 240 / 347 >

この作品をシェア

pagetop