空色幻想曲
「今までだって死角への攻撃を問題なく防いでた。あなたほどの人が弱点を鍛えてないわけないもの。むしろ、右のほうが強いんじゃない? だったら逆を狙ったほうがいいでしょ?」

「ほう。なかなかの洞察力だ」

 めずらしく誉められて上機嫌になる。

「が、馬鹿正直に狙うだけじゃまだまだだ」

「う……」

 やっぱりスパルタでした。

「その程度で魔族を(たお)すなんて不可能だな」

 心臓がふるえた。
 なんの前ぶれもなく出てきた『魔族』という単語に。

「強くなりたい理由はそれだろう」

 まっすぐに向けられた、翡翠。

 ──やめて。見ないで。

 おだやかな光はまっすぐすぎて心を丸はだかにされたきぶんになる。
 フェンネルの千里眼とはちがう。
 ウソを見ぬくのではなく、ウソをつけなくさせる瞳。

 視線をそらした私をそのまま逃がしてくれるほど、彼は甘くない。刃のような言葉を突き立ててきた。

「お前がどんなに強くなろうと、魔族には敵わない」

「どうして!?」
 突き立てられた刃に食いさがる。
「女だからだ」
 それをまたバッサリと斬り捨てられた。

「でも! 足りないところを技術でおぎなえば──」

「リーチが短ければ攻撃が届きにくい。筋力が弱ければ技の破壊力が落ちる」

「だから! それを技術でおぎなうんじゃない!」

 しつこく食いさがると、手首をつかまれ木に押さえつけられる。長身の体が密着するほど迫ってきた。
 耳もとで吐息を吹きかけるようなささやき声に、妖しさが宿る。

「口で言ってもわからないか……なら、体で教えてやろうか? 男と女の違いを」
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