空色幻想曲

†黒いキモチ†

Tirnis side
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「なんてことをなさるのです!?」

 新しい護衛騎士と対面後の昼さがり。
 朝はまぶしいほど澄みきっていた快晴の空に、今はあいにくの暗雲が立ちこめていた。

 …………私の部屋にだけ。

 王宮中に響きわたる怒声は、雷鳴の(とどろ)き。
 魔物の形相を通りこし、完全に魔王と化したダリウスがそこにいた。

「一国の王女……いえ、慈愛の女神と謳われるお方が兵士に扮して騎士に斬りかかるとはなんたる醜態(しゅうたい)!! このダリウス、姫様の教育係として恥ずかしゅうございます!!」

「…………」

『耳にタコができる』とは、まさにこのこと。先人はうまいこと言うなぁ。……なんて毎度のことながら感心する。

「ティアニス様っ! ちゃんと聞いていらっしゃいますか!?」

「聞いてます聞いてます! 悪かったですってば! 海より深~く反省してます」

「……そのお言葉、何度目ですかな?」

「…………」

 それはダリウスのお説教と同じ数だけ、と心の中で答える。

「よろしいですか!? 姫様!! 一国の王女たるもの……(うんぬんかんぬん)」

 ああ、始まってしまった。こうなると長いのだ。
 耳をふさぎたくなるのを懸命にこらえてお説教に聞きいる……フリをする。いつも右から左だが、こう何度も聞いていると次のフレーズは勝手に浮かんできてしまう。

(次は『ましてや、ティアニス様は女王になられる身で……』)

「ましてや、ティアニス様は女王になられる身で……(あーだこーだ)」

 ほら、ね。
 実はお説教の台本があって暗唱しているんじゃないかな。

「このダリウス、いつも寿命が縮まる想いですぞ! いや、このままでは死んでも死にきれませんっ!!」

 縮まって70歳ならじゅうぶんじゃないか。世界平均寿命は60歳だ。

「今年、姫様は御歳(おんとし)16になられるのですぞ! 成人するということがどういうことか御分かりですか!?」

 お説教はますますヒートアップ。芝居でいうと一番の見せ場に突入したところで……
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