空色幻想曲
「無理言ってすまねぇ。こうでもしないと黒幕をあぶり出せそうにねぇんだ」

「女王の(めい)ならば()が出しゃばるわけにもいくまい。公務のできぬ体とはいえ、今の王はリディアだ。政務に関してはルードにも劣らぬしな」

 リディアは病弱ゆえに後継者候補から外され、王になるための教育はいっさい受けていない。にもかかわらず彼女を女王たらしめているものは、その博識さだった。

 部屋の中で過ごす時間を自ら読書と勉学に注ぎこんだ。(おおやけ)に出られないからこそ国内外の情勢に強い関心をよせ、独学で得た知識は図らずも女王の地位に就いたとき、政務で才覚を見せることとなった。

 双子の姉ライラが女王になっていたならば、補佐として力を発揮するはずだったのだが。

 そのリディアが、ヴィクトルに一芝居うたせたのだ。
 女王の命だと悟られずにティアニスが視察へ行く状況を作りだしてほしい、と。

 ヴィクトルは寝台から男を見下ろして言い渡す。

「なんとしてもティアニスを護れ。王位を退いた今、余が望むのは、それだけだ」

「承知」

 絶対の覚悟を胸に、答えた。


 (うごめ)く闇を白日(はくじつ)(もと)に引きずりだすために。


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