空色幻想曲
 彼は大聖堂の管理と同時に、王室おかかえの医師を務めている。

 神の力を借りて傷を癒すのが、神官。
 薬の力を借りて病を治すのが、医師。

 二つは似て異なるもので、それぞれ別の専門知識と才能が必要だ。
 そのどちらも極めた天才がラーファルト神官長だった。

「お母様のご容態(ようたい)は変わりなくて?」

「常と変わらぬご様子とお見受けしました。最近は病状も安定しています」

「よかった……」

「ただ……」

「ただ?」

 ガラス越しの瞳がかすかに曇る。

「お身体より、お心のほうに何か抱えていらっしゃると感じました。ここ一週間のことですが」

 ドクン──と、小さく心臓が跳ねた。

「身体に効く薬はご用意できても、心に効く薬はなかなか難しいですからね。王女様がお顔をお見せになれば変わるかもしれません」

「ええ。そのつもりよ」

 内心でふるえながら、いつもの笑顔をかえす。

「それはようございました」

「でもお父様のほうを先に……と思って」

「そうでしたね。どうぞこちらに」
< 90 / 347 >

この作品をシェア

pagetop