Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―




「……思い出せたら困らなくていいのに」



もう分からない。



何もかも。



……こんなこと本城さんに言っても、困るだけなのにな。




俯く俺の頭に、ふわっと温かい、手の感触。





「思い出さなくてもいいよ。昔に囚われなくて、今涙がしたいことをすればいい」



視線だけ上げれば、本城さんは優しい笑顔で俺を見据えていた。




だけど、この顔を俺は知ってる。


またね、と言った後、病室を出ていくあの一瞬に見せる顔。




その顔が、思い出せずに苦しんでいる俺以上に苦しそうで。



本城さんが、こんな顔しなくても良いのに。





何を考えているのかは分からないけれど優しい本城さんの事。




俺の今の姿を見て、同じように苦しんでくれているんだろう。




……その笑顔が、痛々しくて。




そんな顔をさせてしまっている自分が情けなくなった。






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