Engagement Ring―かすみ草―×―ひまわり―





病室から帰っていく時のあの寂しそうな表情は……俺のせい。



何回、あんな顔をさせたんだろう。





『もしかして、レイコさんとの約束とか?クリスマスがどうとか言ってたな』



『……思い出して』



『俺、レイコさんと付き合ってたのかな?』



『ね、どう思う?
本城さんは昔の俺知ってるんだろ?誰と付き合ってた……とか』



『自分で思い出さなきゃ……』



『思い出せないから聞いてるんだけど』



『思い出さなくてもいいよ。昔に囚われなくて、今涙がしたいことをすればいい』




俺に、記憶を失う前の真実を言ってしまえば早いのに。



俺が混乱するかもしれない事を考えてからか、波音は絶対に何も教えてくれなかった。



たった一言。



『思い出して』と必死に俺に訴えてくれていたのに。




思い出せないもどかしさを波音にぶつけて……波音に当たって。



きっと波音だって真実を言いたいもどかしさを感じていたはずなのに。




俺の事を考えて、過去に囚われないようにって……。




『……これね、もう必要無くなったからあげる』






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