レンズ越しの君へ
芽生えた痛みに唇を噛み締めたけど、廉の機嫌を損ねたくは無かった。


またあんなに酷い事をされたくなかったから…。


「……何か作るね」


涙を拭って笑みを繕った後、逃げるようにキッチンに向かった。


「ユイ、か……」


あの喧嘩があったから、廉は“澪”って呼んでくれるかと思っていた。


せめて名前だけは、って期待して帰って来たんだ…。


ちゃんと“澪”って呼んでくれたら、依存だったとしても廉と一緒にいたいと思ってたのに……


あたしの決意は、ガラガラと崩れ落ちてしまった。


せっかく綾が元気付けてくれたのに、また落ち込んでしまう。


「ユイ……?まだ?」


待ちくたびれた廉が、キッチンに入って来た。


「あっ、ごめんね。もうすぐ出来るから!」


あたしは必死に笑顔を作って、明るく振る舞った。


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