レンズ越しの君へ
廉は、あたしの名前を一度も呼んだ事が無い。


普段は“お前”って言うし、あたしを抱く時は“ユイ”って呼ぶ。


最初は、そんなに疑問に思わなかった。


元カレの時も、そんな事があったから…。


だけど…


普通は、そのうち本名で呼んでくれるようになる。


あたしは、いつまで経ってもあたしの事を“澪”じゃなくて“ユイ”と呼び続ける廉に、少しずつ不安を感じていた。


「ねぇ、あたしの本名知ってるよね?」


だから、思い切ってその事を切り出してみた。


「あぁ」


ソファーで雑誌を読みながらタバコを吸っていた廉が、あたしの方を見ずに返事をした。


「じゃあさ、本名で呼んでよ!澪、って♪」


あたしは、彼の隣に座って明るく言った。


「何で、今更?」


廉はあたしの顔を見ないまま、冷たく言い放った。


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