ゴーストオブアイデンティティー
裏では無駄な情報は一切、削除される。

黒く塗り潰される人像。

表が人物なら、裏はその人物の「影」だ。


己のアイデンティティーを亡くした者の、末路。





男のズボンに入れた携帯電話が震える。無造作に取り出し、相手を確認、繋いだ。


「どうした?」


「G0、零点(ゼロポイント)に侵入しました」



間髪を入れぬ間に、相手が答える。声は低くとも、女の声だった。

「そうか…」


「いかがしますか?」


男は少しの間沈黙し、「何も仕掛けるな」とだけ伝えた。


「お前達はまだあいつとやりあうには未熟だ。遠距離から監視を続けてくれ。そしてもし、見つかったら…」


「…見つかったら?」


「全力で退避してくれ」


絞り出すような男の声に、女はそれが本気、本心から言っているというのに気付いた。
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