ラストメッセージ
体調がよさそうだったあの撮影の日も、美乃は夕方から発熱してしまった。
それからもずっと、彼女の熱が下がらなかった。


「もう一ヶ月近く熱があるんだよ? 発熱の連続記録、更新しちゃった……」

「そんなの数えてるのか?」

「日記に書いてる……」

「へぇ、日記なんか書いてたのか。ちょっと見せて」

「ぜぇーったいにダメッ‼ いっちゃんだけには、なにがあっても絶対に見せてあげないっ‼」

「そんなに拒絶するなよ……。傷付くだろ」

「女の子の日記は、秘密がいっぱいなんだよ!」


美乃はそう言って、悪戯っぽく笑った。
俺は、「はいはい」と苦笑して見せ、彼女の頭を優しく撫でる。


美乃の笑顔の裏では、体が確実に弱っていっている。
その証拠に、今は三十八度を越える日も決して少なくはなく、今日もかなり高いようだった。


「もうすぐ、クリスマスだね」


不意に、彼女が話題を変えた。


「いっちゃんは、去年のクリスマスイヴのこと、ちゃんと覚えてる?」

「忘れるわけないだろ? 病院の前でお前とぶつかって、クリスマスイヴに恨みを買ったんだからな」


わざと不満げに言うと、美乃はバツが悪そうな顔をして慌て始めた。


「あ、あの時は、ちょっとイライラしてたんだよ! 二十歳のクリスマスイヴを病院で過ごすなんて、絶対に嫌じゃない? だから、八つ当たりしちゃったの……。……でも、あの時は本当にごめんね?」


しゅんとして謝る彼女を見て、思わず吹き出してしまった。


「冗談だよ! 俺の心はそんなに狭くないからな」

「もう! またからかって……」


拗ねた美乃が、そっぽを向いてしまった。


「悪かったよ」


俺が謝っても、彼女はなにも言わない。


「どうした……?」


ただ拗ねているわけじゃなさそうで、思わず眉間にシワを寄せてしまった。

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