Devil†Story
ーー数時間後。


まだエリザベスは寝ており、静寂が包まれていた時だった。


ーーガチャッ!!


「!」


玄関が勢いよく開く音がして、それと同時に血の匂いが家に広がった。


それ自体はそんなにおかしいことではない。


狩りの後ですら血の匂いは部屋に広がる。


俺たちは鼻がいいから少しでも匂いがする。


しかし、それ以上に強い血の匂いで負傷者がいる事すぐに理解できた。


エリザベスが起きないように静かに部屋を出た俺は下に向かった。


部屋を出た瞬間から下が騒がしいことからよくないことが起こっていることは安易に想像できた。


階段を降りると血の匂いがより一層強くなった。


廊下には血痕が道しるべとなっていた。


その血痕をたどってリビングに行くと……。


「アンナ!アンナっ…!頼む!しっかりしてくれ…!!」


ルイさんの悲痛な叫び声と、アンナさんが血塗れでぐったりしており、父さんが抱きかかえてソファに寝かされていた姿が五感を通して飛び込んできた。


すぐに父さんは点滴装置を取りに行く。


アンナさんの傷は酷いものだった。


全身に切り傷、刺し傷……ソファを一瞬で赤く染めていることから背中を特にやられていることは理解できた。


「くそっ…!」


ルイさんはアンナさんに手をかざすとふわりと優しい色彩の光がアンナさんの全身に覆われた。


あの光こそ治癒能力に特化したルイさん達の力である。


あの光で全身が覆われると傷口が残らないくらい怪我を治してくれるのだ。


だから安心していた。


しかし……


「うっ……」


ルイさんがよろけると共に光は空間に吸い込まれてしまった。


「駄目だ!ルイ!そんな怪我をしてるのにその力を使えば本末転倒だぞ!」


ルイさんもよく見れば全身に傷が付いている。


そんなに体力が残っているわけではなさそうだった。


「離してくれ!クローリー!アンナを治すんだ!」


「点滴装置を付けて安静にしていればお前の力が戻るくらいまでは持つ!落ち着くんだ!」


立ち上がろうとしたルイさんを父さんは無理矢理向かいのソファに寝かせた。


初めは納得しきれない様子だったが、疲労困憊なのか力なくソファに横たわった。


「ふぅ……」


溜息をついた父さんが動けずに見ていた俺を見た。


ようやく俺の存在に気付いたと言った感じで「あぁ…いたのか」と血に塗れた手と顔をタオルで拭いた。


「だい…じょうぶなの?」


恐らく殆ど人間達の返り血であろう父の姿に思わず一歩引きながら尋ねる。


「なんとかな…。だが…クローディアちゃんが連れて行かれた」


「え!?」


「っ…」


ルイさんは辛そうに目元を腕で覆った。


「今母さんが奪還してこちらに連れてくるはずだ。母さんは最速の吸血鬼と言っても過言ではない。上手く撒いてくれるだろう」


「そうだけど…母さんだけなのは危険じゃない?」



「奴等は躊躇しない。もし救助が遅れてクローディアちゃんが捕まれば…無理矢理拘束されて心臓を杭で打たれて…首をはねられるだろう」


父さんの言葉に思わず言葉を失った。


そこまでするのか?


いくら吸血鬼といえ…まだ人間で言っても子どものクローディアに?


「…いいかヤナ。人間達は数の暴力で攻めたてる。俺たちは彼らにとって敵でしかないんだ。ルイ達が行った村は丁度…天災に見舞われていた。彼らは彼らなりに大切なもの達を失った。その怒りを、憎しみをぶつけることもできずにな。そんな中、吸血鬼が現れればそれで彼らの残虐な部分と自分らだけで拭えない弱さを掻き消そうとする。相手は誰でもいいんだ。自分たちに被害を及ぼすものであればな」


父の顔が険しくなっている。


「クローディア……どうか無事で…っ…!」


ルイさんは今にも消えそうな声で呟いた。


その瞬間、再び玄関が勢いよく開かれる。


音を聞くなり父は廊下に一瞬でやってきた。


「あなた!!」


母のただならぬ雰囲気に目を向けるとそこには腹部に杭と、身体中に矢が刺さったクローディアと同じく数本の矢が刺さった母さんが倒れこむように家に入ってきた。
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